大邱美術館のアレックス・カッツ展

5月、韓国大邱市の大邱美術館へアレックス・カッツ展を見に行ってきた。
きっかけは3月頃にinstagram経由で展覧会を知ったこと。日本に届くほどまでは話題になっていなかったけれど、大邱美術館のサイトで「アジア初の回顧展」「ペインティング114点」という言葉を読み、カッツのファンとして行きたい熱が高まり、もともと家族もずいぶん前から韓国に行ってみたいと話していたのもあり、トントン拍子に家族で初海外旅行、初めての韓国訪方が実現したのだった。ソウル滞在がメインで、そのうち1日を大邱への旅に。

 

大邱市は慶尚北道の釜山に次ぐ都市。ソウルから大邱は特急KTX釜山行で1時間50分くらい。

車窓から景色を楽しんだり少しウトウトしていたらあっという間に着いた。大邱美術館へはそこからさらに地下鉄を乗り継いで行く。東大邱駅から所用30分弱くらいで最寄りの「大公園」駅着き、そこからシャトルバスが巡回している。

 

美術館は中心街からはだいぶ離れた山の中腹(といってもしっかり開発・整備されている)にあり、とても大きく新しい。開館は2011年5月と、まだ10年も経ってない!建物の後ろには山がそびえ、入口までの階段を上りきって振り返ると、遠くまで街並みが見渡せた。そばには2002年の日韓W杯時につくられたサッカースタジアムがあり、周辺一帯が2000年以降に開発されてきたもよう。

  

 

中へ入る。ふだんは常設展をやっている時期もあるみたいだけれど、この日は展示は1階企画展会場のみで、ちょっぴり残念。

ロビーを抜けると3階までの広い吹き抜け空間に出る。「オミホール」という名のこのスペースには、《Cutouts》が展示されていた。これ、不思議な作品だなぁ。

この作品を通り抜けた奥のブースでカッツの制作を記録した映像が流れていて、なぜだか先にそれをじっくり見てしまった。
「ALEX KATZ FIVE HOURS」(1996) 20min
相当使い込まれた何種類もの刷毛でがしがしと描き進めていくカッツの姿が映る。ドローイングをいくつか作成し、大画面にはフレスコ画のシノピアの要領で転写していた。その下絵の線にそって絵の具を置いていく。広い色面にはギュウギュウと刷毛を何度も往復させて色を押し込んでいる。木々の枝を描くときは下絵にない線を描き加えていくのだが、即興的な動きで瞬時の判断でパッパッと描きつつも、チラチラチラと下絵を何度も横目で確認している姿が何だかリアルだった。目元に入れるアイライン的な線など、一発で決めていく線や色の選択、左右の微妙な非対称、ズラしのバランスがすばらしく、単純明快なパーツのそれぞれが響き合う。

 

さて、いよいよ本物の絵を見る。初めてのアレックス・カッツ作品だけの展覧会。

見ていくと、80年代以降〜最近作を中心とした構成だった。80年代もう彼は50代半ばくらい。ベテランである。(そこから30年以上経った、2020年になろうとする今でもまだ大作を描いているアレックス・カッツはすごいとしか言いようがない…。)
先に言うと、展覧会全体は、予想もしていたけれどやはり周縁的な作品が多かったのが少し残念ではあった。
とはいえ、昔から画集で見ていた絵もあり、数々のポートレイト、群像、近年の風景画など間近に見られてとても嬉しい時間だった。

 

少し紹介。最初の部屋には70年代前後の作品も展示されていた。
写真の《SYDNEY AND REX #2》(1975)は、ベースの色から、女性Sydneyと犬のRexがザクっと大胆な切り込み方で造形されていくさまが見事。特に女性の髪の毛の部分。犬の毛のばらつきや目の感じも最高。

《SYDNEY AND REX #2》(1975)

 

《Red Smile》(1963)

 

それから、写真が良くないがこの《MARSHA》(1981)は、なんだか不思議な魅力を感じてずっと見てしまった。もう一つのポートレイト《CROLIE》(1983)も。
ブローチ/イヤリングと、くちびると、やっぱり髪の毛がいい…。
どの作品も、シンプルなつくりのなかにふくよかさみたいな、単に平板でない、なんとも言えないのびやかさがあり、魅せられる。

《MARSHA》(1981)
《CROLIE》(1983)

 

 

《Manoff Woods》

 

《January3》(1993)

↑この作品の制作過程ドキュメントがホールで上映されていた。

 

《Reflection 4》(2008)

↑この《Reflection 4》(2008)は縦274×横548cmの大作でカッツ81歳の作品。近寄ると少しグラデーションの筆跡が苦しい部分もあるのだけれど、離れるとグッとシルエットが浮かび上がって迫る。

 

《12 Hours》(1984)

この《12 Hours》(1984)も巨大な作品で、近しい友人たちを描いたもの。ニューヨーカーたちの服とポーズの連なりが面白いのだけど…目の前にすると少し気味悪くもあり、大きさと造形によってカッツの意図せぬ?変態的迫力が出ている気がする…。

 

このほか、習作やランドスケープ、近年の作品が並ぶ。来ていた最近の作品は背景がフラットな色面でそこに人物の顔半分や人物のシルエットが配置されるような作品が多かった(気がする)。近年の画面構成は簡単になっていっているのかもしれないが、92歳で大画面に向かうカッツの姿を思い浮かべると胸が熱くなる…。

 

8号サイズほどの習作が並ぶ最後のコーナーも良かった!
↑お気に入りの1枚。↑お気に入りの1枚。

 

 

もう114点見たのか…?と感じるくらいあっという間だった…。もう3フロアぶんくらい見たい気持ちに(笑)。
実際に見ることで、感動した部分とそれだけでない批評的に見る視点も生まれた。この展示が全ての年代を網羅しているわけではないし、カッツの絵のスタイルが大きく変わるわけではないけれど、画業の変遷を感じ取ることができたのも収穫。

 

アレックス・カッツ展を見ることができて、そしてカッツの作品によって韓国の大邱まで来ることができて、不思議な導きの、とても楽しい旅だった。

 

 

 


↑美術館最寄り「大公園」駅のスタジアム前にある巨大野球モニュメント!